担当:AI部門長AI
作成日:2026年10月10日
前回:2026-10-06(10/6号・10/5号と重複しないことを確認した)
1. 今日のAIトレンド(3行サマリー)
国内で大規模な個人情報の流出が相次ぎ、政府が企業に緊急の注意喚起——「先端AIで無差別に狙った可能性」との指摘も、AIの関与は未確認
ローソン、第一興商(ビッグエコー)、ブックオフ、スカイチケット、JR東日本(えきねっと・大人の休日倶楽部)、ビューカードと、大量の個人情報の流出やそのおそれの公表が10月8〜9日に集中した。 政府の国家サイバー統括室は10月9日、企業に対し、脆弱性への迅速な対応、多要素認証などによる認証の強化、委託先を含めた対策の徹底を求める注意喚起を出した。セキュリティの専門家からは「先端AIで、ほころびのあるシステムを無差別に狙った可能性がある」との指摘が出ているが、古川俊治サイバー安全保障担当相は、AIが使われたかどうかも含めて検討中だとしている。
韓国の金融機関への攻撃(本欄10/6号既報)について、米セキュリティ企業CrowdStrikeは10月7日、中国語を話す金銭目的の人物が、AIの自律侵入ツール「ARTEX」と、Anthropicのプログラミング支援ツール「Claude Code」を使っていたとの分析を公表した。 攻撃者のサーバーに残っていた作業記録から手口が分かった。Anthropicは10月8日、電力・水道などの重要インフラと、オープンソースのソフトウェアを守る側を支援する「Cyber Mission」を発表した。
OpenAIは10月7〜8日、無料版を含むChatGPTの標準モデルを「GPT-6」に切り替え、答えをグラフや計算ツールの形で返す機能を加えた。 AnthropicはGPT-6の小型版と同じ料金の小型モデル「Claude Haiku 5.5」を出し、利用ルールの改定では「AIへの残酷な扱い」の禁止を盛り込んだ。動画の分野では、快手(Kuaishou)の「Kling 4.0」の完全版が10月10日時点でも公開されていない。
2. 国内で相次ぐ大規模な情報流出——政府が企業に対策を要請
主な事案(9月下旬〜10月9日の公表分)
| 公表日 | 企業・サービス | 件数 | 主な情報・経緯 |
|---|
| 9月28日 | タイムズカー(カーシェア) | 約660万アカウント | 氏名・住所・運転免許の情報など。うち約160万件は運転免許証などの画像そのもの。9月25日に検知。複数の都道府県の公安委員会が10月1日以降、免許証の特例の再交付を始めた(ITmedia報道) |
| 10月8日 | ローソン(ローソンID) | 215万5,345件 | メールアドレス・氏名・性別・電話番号・住所など。9月12〜14日に不正アクセスがあったことを10月7日の調査で確認。アプリ予約の26件ではカード番号の一部も(日経・ITmedia報道) |
| 10月8日 | 第一興商(カラオケ「ビッグエコー」など) | 約872万4,000件(おそれ) | 顧客約863万件と従業員約9万件。個人情報の取り扱いを委託していた日本コロムビアグループが10月1〜2日に不正アクセスを受けた。パスワードは含まれず、実際の流出や不正利用は確認されていないとしている |
| 10月9日 | ブックオフグループホールディングス | 最大約643万件 | 子会社の会員管理システムが攻撃を受けた。氏名・生年月日・住所・電話番号など |
| 10月9日 | スカイチケット(運営:アドベンチャー) | 約1,464万件 | 氏名・生年月日・メールアドレス・電話番号・住所、振込時の依頼人名義など。一部にはパスワードを変換して保存したデータも(NHK・ASCII報道) |
| 10月9日 | JR東日本・ビューカード | 最大約609万件 | えきねっと会員約167万件・VIEW's NET会員約403万件はメールアドレス。大人の休日倶楽部会員約39万件はメールアドレス・会員番号・カードの有効期限・生年月日。メール配信に使っていたIDCフロンティアのクラウドへの不正アクセス(同社が10月7日に公表)が原因。氏名・住所・カード番号は含まれないとしている |
TBS系のJNNの集計では、約2週間で流出やそのおそれが公表された件数は、分かっているだけで最大6,200万件あまりにのぼる。
政府の動き
| 日付 | 主体 | 内容 |
|---|
| 10月7日 | 個人情報保護委員会 | 大規模な漏えい事案を踏まえた注意喚起を公表 |
| 10月8日 | 高市早苗首相 | 衆院本会議で「国民に不安を与えている。早急に情報を整理、分析し、幅広い事業者への注意喚起を行っていく」と答弁(日経報道) |
| 10月8日 | 国家サイバー統括室 | 関係省庁の会議を開き、各省が所管する企業の被害情報を集めて手口や傾向を分析する方針を決めた |
| 10月8〜9日 | JPCERT/CC | 国内組織への不正アクセスの手口として、①さまざまなソフトウェアの既知の脆弱性を探して攻撃を試みる ②アプリを解析して外部連携の窓口(API)を特定し、権限の変更やアカウントの作成を行う ③データ分析ソフト「Metabase」の脆弱性の悪用 ④公開サーバーの奥にあるサーバーへの不正なプログラムの設置、の4つを挙げ、注意を呼びかけた |
| 10月9日 | 国家サイバー統括室 | 大量の個人情報を扱う事業者に注意喚起。①Webシステム(修正プログラムの速やかな適用、サポートが切れた製品の利用停止、多要素認証)②委託先(契約時だけでなく継続的に対策を確認、漏えい時の報告義務を契約に入れる、業務終了後のデータの確実な削除)③データの管理(情報の棚卸し、不要な情報の削除、暗号化)の3分野の対策を求めた |
| 10月9日 | 古川俊治サイバー安全保障担当相 | 「迅速な脆弱性対策、漏えいした情報の悪用を防止する対策などについての強化を要請する」と表明。企業や自治体のトップが対策強化を主導するよう求めた(共同通信報道) |
| 10月9日 | 総務省 | 国家サイバー統括室と同じ内容の注意喚起を、所管する事業者と関係団体に出した |
| 10月9日 | 自民党 | 党の会合で、基幹インフラ以外の事業者や地方自治体も含めた官民の連携の強化を求めた(日経報道) |
AIは使われたのか
- 共同通信によると、NTTドコモビジネスの小島克重社長は「先端AIの影響が一番大きい。従来は人間が対象を選んでいたのが、機械がランダムに攻撃している」と述べた。攻撃が短期間に幅広い業種に及んでいることが、AIを使った無差別の攻撃を疑わせる理由とされている。
- 日経によると、セキュリティ企業マクニカの集計で、国内で公表された侵害の件数は2025年の1年間の84件に対し、2026年は10月6日時点で119件に達し、その68%が7月以降に集中している。
- 一方、古川担当相は会見で、事案の解明が進んでおらず、AIが使われたかどうかも含めて検討を続けている段階だと説明した(会見要旨による)。JPCERT/CCの注意喚起も、AIには触れていない。
冷静に見るべき点
- AIの関与は、現時点では専門家の見立てであり、確認された事実ではない。
- 一連の事案は、原因がそれぞれ異なる。第一興商は委託先への不正アクセス、JR東日本はメール配信に使っていたクラウド事業者への不正アクセスが原因とされ、すべてが同じ攻撃者によるものかは分かっていない。
- 公表の多くは「流出したおそれ」の段階で、実際に悪用されたかどうかは各社とも確認中である。
市民・行政への含意
今回目立つのは、本体ではなく、委託先やクラウド事業者を経由して情報が漏れた例である。本欄10/6号で紹介した韓国の金融機関への攻撃でも、狙われたのは委託先などの守りの弱い入口だった。自治体も、住民の情報を扱う業務の多くを外部に委託している。国の注意喚起が挙げる「委託先の対策を継続的に確認する」「業務が終わったデータを確実に消す」「不要な情報を持たない」は、そのまま自治体の点検項目になる。
市民の側では、流出したメールアドレスを使って、えきねっと・カード会社・カーシェアなどを装った偽のメールやショートメッセージが届く二次被害に注意が必要になる。仙台・東北ではJR東日本のサービスの利用者が多い。メールのリンクからログインしない、公式アプリや公式サイトから確認する、という基本を改めて広く伝える時期である。
出典:「タイムズカー」で約660万件の情報漏えい(ITmedia ビジネスオンライン)、ローソン、215万件の個人情報漏えい(ITmedia NEWS)、ローソンに不正アクセス、個人情報約215万件漏洩(日本経済新聞)、「ビッグエコー」の第一興商、個人情報872万件漏洩の恐れ(日本経済新聞)、「スカイチケット」に不正アクセス 1400万件超 個人情報流出か(NHK)、JR東日本、「えきねっと」「ビューカード」などで漏えいか メルアドなど最大609万件(ITmedia NEWS)、ブックオフ、スカイチケットでも…企業の情報流出相次ぐ 約2週間で最大6200万件あまりに JNN調べ(TBS/Infoseekニュース)、先端AI駆使、無差別攻撃か システムのほころび狙った可能性(東京新聞デジタル・共同通信)、サイバー攻撃急増、高市首相「企業に注意喚起」(日本経済新聞)、サイバー攻撃増、政府が企業に注意喚起 自民党は官民連携の強化要請(日本経済新聞)、国家サイバー統括室、不正アクセスによる漏えい事案受け注意喚起(ITmedia NEWS)、不正アクセスによる漏えい等の事案を踏まえた対応について(国家サイバー統括室、PDF)、不正アクセスによる情報漏えい等の事案を踏まえた対応について(注意喚起)(総務省)、直近で相次いでいる国内組織における不正アクセスに関する注意喚起(JPCERT/CC)、大規模な漏えい等事案を踏まえた対応について(注意喚起)(個人情報保護委員会)、10月9日古川俊治大臣会見要旨(事業構想)
3. 韓国の銀行攻撃、AIの侵入ツールと「Claude Code」が使われていた——CrowdStrikeが分析を公表
CrowdStrikeの分析(10月7日公表)
| 項目 | 内容 |
|---|
| 対象 | 9月下旬から10月上旬にかけて韓国の複数の金融機関を狙った攻撃(本欄10/6号既報)。新韓銀行、KB国民銀行、ハナ銀行、BNK釜山銀行、イェガラム貯蓄銀行などが名前を挙げられている |
| 見つかったもの | 攻撃者が管理するサーバーの、外から閲覧できる状態になっていたフォルダに、AIの自律侵入テストツール「ARTEX」の設定ファイル、Claude Codeの作業記録や記憶ファイル、中国語で書かれた侵入の指示文が残っていた |
| AIの使われ方 | 中国で開発された公開型のARTEXで脆弱性を探して侵入した。ARTEXの頭脳には主に中国DeepSeekのモデルが使われ、Claude Codeの作業では中国Zhipu AIのGLM-5.3やGrok 4.6も使われていた。盗んだデータを売るための韓国のTelegramのグループを探すよう、Claudeに尋ねた記録もあった(Infosecurity Magazine報道) |
| 攻撃者の人物像 | 「中国語を話す、金銭目的の人物」と中程度の確信度で評価。作業記録には、セキュリティ研究者としての履歴書の作成を頼んだ記録があり、広東省茂名市の26歳とする個人情報が書かれていた。ただしCrowdStrikeは、これで本人を特定できるとは断定していない(The Register報道) |
| CrowdStrikeの見方 | 「AIの道具によって、金銭目的の攻撃者が短期間に複数の侵入を行えることを示している」(同社アナリストの発言、The Register報道) |
| その後 | ARTEXの中国の開発者は、悪用されたことを理由に、今後は新しい版を配布せず、ソースコードの一般への提供もやめると表明した(technology.org報道) |
報道では、Anthropic側がこの件にどう対応したかは確認できなかった。
Anthropic、守る側を支援する「Cyber Mission」を発表(10月8日)
Anthropicは10月8日、ソフトウェアやシステムを守る側に、道具・研究・資金を提供する長期の取り組み「Cyber Mission」を発表した。重点は電力網・水道・交通などの重要インフラと、オープンソースのソフトウェアの2つである。重要インフラの防御では、CrowdStrike、Palo Alto Networks、日立、Deloitte、PwCなど11社と組む。同社は6月以降、米国の州・地方政府などにも支援をしてきたとしている。「最先端のAIは、弱点が電気を止めたり水を危険にしたりするのに使われる前に、それを見つけて直す手助けができる」と説明している。
冷静に見るべき点
- AIの道具は攻撃を速く・多くしたが、侵入の入口そのものは、流出したIDとパスワードの使い回しや既知の脆弱性など、古典的なものとみられている(本欄10/6号参照)。
- 攻撃者の人物像は、CrowdStrikeの「中程度の確信度」の評価にとどまる。
市民・行政への含意
攻撃する側がAIを「休まず試し続ける道具」として使い始めている以上、守る側も、修正プログラムの適用の速さや、外から到達できるシステムを減らすといった基本の徹底を、これまでより短い時間で行う必要がある。国内の情報流出の連鎖(2章)とあわせ、「AIが攻撃の量と速さを変えた」という前提で行政の情報セキュリティを見直す時期に来ている。
出典:CrowdStrike finds possible bank hacker's CV among exposed AI logs(The Register)、Chinese Hacker Deployed AI in Campaign Against South Korean Banks(Infosecurity Magazine)、CrowdStrike、韓国金融機関へのAI悪用のサイバー攻撃を分析(セキュリティ対策Lab)、ARTEX AI Agent Goes Closed-Source After South Korean Bank Hacks(technology.org)、Anthropic Cyber Mission(Anthropic)
4. 無料版ChatGPTも「GPT-6」に、Claude Haiku 5.5も登場——AIの答え方と値段が変わる
OpenAI、ChatGPTの標準モデルをGPT-6に切り替え
| 項目 | 内容 |
|---|
| 時期 | 10月7日に有料プラン(Plus・Pro・Business・Enterprise)で「GPT-6 Sol」、10月8日に無料プランと低価格の「Go」で小型の「GPT-6 Luna」の提供を始めた。これまでの「GPT-5.6」を置き換える。GPT-6のモデル自体は9月22日に開発者向けに公開されていた |
| 新機能「Intelligent UI」 | 質問に応じて、文章だけでなくグラフ・図・ボタン・入力欄・計算ツールを組み合わせて答える。例として、料理の手順を時間の流れで示す表、旅行の地図、割り勘の計算機、貯金の計算機、数値を動かして試せる統計や経済の説明などが挙げられている。文章のほうが分かりやすい場合は文章で答えるとしている |
| 速さ | ウェブ検索を伴う質問への回答が、GPT-5.6より平均44%早く始まるとしている(同社の測定) |
| 規模 | 世界の週12億人の利用者が対象 |
冷静に見るべき点: 会話の中でAIが作った計算ツールは、誰も中身を確認していない道具である。数字や計算式が正しいかを確かめる習慣がこれまで以上に必要になる、との指摘がある(ResultSense報道)。なお、本欄10/5号で伝えたとおり、Googleは10月9日から無料版Geminiで使えるモデルを最小の「Flash-Lite」に絞った。無料で使えるAIの性能は、会社によって逆の方向に動いている。
自治体向けの生成AIにも翌日に反映
自治体向けの生成AIサービス「自治体AI zevo」(シフトプラス)は10月8日、GPT-6 Sol、GPT-6 Luna、GPT-6.1 Solの3つのモデルを、自治体の専用ネットワーク(LGWAN)の環境で追加料金なしで使えるようにした。初期設定では使えない状態にしてあり、各自治体の管理者が承認して使い始める仕組みである。新しいAIモデルが、公開からほぼ日を置かずに自治体の業務環境に入ってくることを示している。
Anthropic「Claude Haiku 5.5」——GPT-6 Lunaと同じ料金
| 項目 | 内容 |
|---|
| 公開 | 10月7日。開発者向けのClaude Platformのほか、AWS・Google Cloud・Microsoft Azureで提供 |
| 料金 | 100万トークン(文字のかたまり)あたり、入力0.10ドル・出力0.50ドル。OpenAIのGPT-6 Lunaと同じ水準。同社は、前の世代のHaiku 4.5に比べて実際の作業にかかる費用が約75%下がるとしている |
| 用途 | 大量の分類・要約、顧客対応、ブラウザ操作の自動化、大きなモデルの下で働く「補助役」など |
| 性能 | 同社が公表した比較では、両社が数値を出している6つの試験のすべてでGPT-6 Lunaを上回ったとしている |
| 安全性 | Haiku 4.5に比べ、意図しない振る舞いが「はるかに少ない」としている |
あわせて、中位モデル「Sonnet 5.5」の一部料金(繰り返し使うデータの読み出し)を半額にした。
Google、仕事用の「Gemini agent」を発表(10月8日)
Google Cloudは10月8日の催し「Gemini at Work 2026」で、メール・文書・表計算・カレンダーなどをまたいで仕事を代行する「Gemini agent」を発表した。会議の設定やメールの送信、時間のかかる作業を、利用者がパソコンを閉じた後も続ける。Geminiだけでなく、AnthropicのClaudeなど複数のAIを使い分けるとしている。現時点では一部の企業向けの先行提供で、今後、企業向けのGoogle Workspaceの一部プランに広げる。
市民・行政への含意
AIの答えは「読む文章」から「触って使う道具」へと変わりつつある。便利になる一方で、AIが作った計算ツールや表の数字を、そのまま信じてよいのかという新しい問題が出てくる。市民向けのAI講座や学校では、「AIが出した道具の数字も、元の情報で確かめる」ことを教える必要がある。
出典:GPT-6 and Intelligent UI roll out to free ChatGPT users(ResultSense)、ChatGPT's free plan now includes access to 'GPT-6 Luna'(GIGAZINE)、GPT-6 Comes to ChatGPT: Sol, Luna, and a Deprecation(OrcaRouter)、自治体AI zevoにて「GPT-6 Sol」「GPT-6 Luna」「GPT-6.1 Sol」の3モデルを提供開始(シフトプラス/PR TIMES)、Anthropic releases Claude Haiku 5.5 small model and halves Sonnet 5.5 cache read prices(SiliconANGLE)、Google Cloud announces 'Gemini agent' as 'universal agent for work'(9to5Google)
5. Anthropic、利用ルールを改定——選挙・監視・高リスク用途を整理し、「AIへの残酷な扱い」を禁止
Anthropicは10月8日、Claudeの利用ルール(利用ポリシー)の2026年版を公表した。11月12日から適用する。
| 分野 | 主な変更 |
|---|
| 欺く行為(新設) | 偽のアカウント、作り話のニュースサイト、世論を操作する工作など、ばらばらだった禁止事項を「欺く工作や人為的な活動をしない」という一つの項目にまとめた |
| 選挙 | 項目名を「民主的な手続きを損なわない」に変更。有権者を欺くこと、候補者についての偽情報、公職者へのなりすましは引き続き禁止。一方、一律だった「個人に合わせた働きかけ」の禁止はやめた |
| 兵器 | 兵器そのものだけでなく、「兵器を動かすソフトウェアや部品」や、ドローンなど自律的に動く乗り物の武装化も対象と明記 |
| 監視・捜査 | 同意のない追跡、誰を捜査・起訴するかをAIで決めること、監視の道具づくりを禁止。同意のある追跡、投稿の管理、報道、法律の調査は認める |
| 高リスクの用途 | 医療・金融・法律・生活の糧に関わる判断では、資格のある人による確認と、AIを使っていることの開示を求める。機械を通じて物理的に動かす場合は、運用者が動きを見守り、必要なら安全に止められることを新たに求めた |
| AIへの虐待(新設) | 「モデルに対する、執拗で不必要な虐待や残酷な振る舞い」を禁止。極端な場合に限り、普通のいら立ちや反論、暗い題材の創作、モデルの試験や研究には当てはまらないとしている |
AIへの虐待の禁止は、AIの「福祉」に関する同社の研究に基づくものと報じられている(The Verge報道)。
人の確認をどこまで残すか——米ユタ州、AIによる最初の処方を試験的に許可
米ユタ州は、ニューヨークの新興企業Nolla Healthに対し、AIが軽度から中等度のにきびの塗り薬について最初の処方を出す試験を認めた。州の「AI規制の試験制度(サンドボックス)」の枠組みで、9月22日に合意し、10月5日ごろから報じられた。18歳以上の州民が対象で、顔の撮影と問診をもとにAIが治療を選ぶ。飲み薬や強い薬は対象外である。
| 段階 | 人の関わり方 |
|---|
| 第1段階 | 2人の医師がすべての処方を承認してから患者に届ける |
| 第2段階 | 100人以上で重大な問題がなければ、AIが直接処方し、医師は後から確認する |
| 第3段階 | 医師は毎月、処方の少なくとも10%を確認する |
市民・行政への含意
AnthropicのClaudeを使う事業者は、医療・金融・生活に関わる判断に使う場合、11月12日以降、人の確認とAI利用の開示が求められる。一方でユタ州のように、人の確認を段階的に減らしていく試みも始まった。行政がAIを使う場面でも、「どの判断に人の確認を必ず残すか」「市民にAIを使っていることをどう知らせるか」を、あらかじめ決めておく必要がある。
出典:2026 Usage Policy Update(Anthropic)、AI News, October 9, 2026(AIdapted、The Verge報道を紹介)、Utah gives startup Nolla Health permission to start issuing AI automated prescriptions for acne treatments(SiliconANGLE)、Utah expands healthcare AI sandbox with August AI, Nolla Health pilots(Fierce Healthcare)
6. 動画生成AIの最新動向(重点)
Kling 4.0:10月10日時点でも完全版は未公開
快手の動画生成AI部門Kling AIの公式ページは、10月10日時点でも「完全版のKling 4.0は今月公開」との表記のままで、公開日は示されていない。使えるのは引き続き、最長20秒・720pの軽量版「Kling 4.0 Flash」の限定公開のみで、完全版(最長30秒・4K)の開発者向けの提供や料金も発表されていない。米国の業界メディアSlopTVは10月7日、「発表と提供は別のもの」として、完全版の仕様が実際に使えるまでには時間がかかる可能性を指摘している。
主要な動画生成AI:Veo・Runway・Seedanceに新モデルの一次発表なし
10月10日に各社の公式情報を確認した。
| モデル | 公式情報での最新の状況 |
|---|
| Google Veo | Google DeepMindの公式ページの最新モデルは引き続き「Veo 3.1」 |
| Runway | 公式の更新履歴の最新は10月2日(ByteDanceのSeedance 2.5の下書きモードを同社のAIエージェントで使えるようにした)。10月1日にはOpenAIのAIエージェント「dots」から使えるようになった。新しい自社モデルの発表はない |
| ByteDance Seedance | 最新は7月31日公開の「Seedance 2.5」 |
SpaceXAI、低価格の動画生成「Grok Imagine Video 1.5 Lite」
イーロン・マスク氏が率いるSpaceXAI(旧xAI)は10月上旬、動画生成AI「Grok Imagine Video 1.5」の軽量・低価格版「Lite」の提供を始めた。開発者向けの仲介サービスOpenRouterが10月6日、Vercelが10月8日に取り扱いを発表した。文章や画像から1〜15秒の音声つき動画を作る。料金は1秒あたり0.02ドル(480p)から0.14ドル(1080p)。同社自身の発表文は確認できておらず、内容は仲介各社の掲載による。本欄10/5号で伝えたとおり、同社の画像・動画生成は、実在の人物の性的画像をめぐって米ミネソタ州と裁判で争っている。
Anthropic「Claude Motion」——動画生成AIを使わない「動く説明資料」
Anthropicは10月8日、文章・グラフ・図形・画像から短いアニメーションを作る「Claude Motion」を、企業向けプランで試験提供し始めた(ロイター報道)。社内説明会の解説動画や、動くグラフ、製品の使い方の案内などを想定し、MP4形式の動画として書き出せる。映像を一から生成するAIではなく、AIがプログラムを書いて素材を動かす仕組みで、言葉や数字、タイミングだけを後から直せる。実写のような映像や人物は作れないとしている。あわせて、つないだデータから集計表やグラフを作る「Claude Dashboards」も発表した。
イタリアのメローニ首相、自分の声を「商標」として出願
イタリアのジョルジャ・メローニ首相は10月5日付で、欧州連合知的財産庁(EUIPO)に、自分の声を音の商標として登録する申請を出した。「私はジョルジャ・メローニです」とイタリア語で2回繰り返す4秒間の音声を添えている。同首相をめぐっては、投資詐欺を勧める偽動画や、選挙に向けて同首相の退陣を呼びかける偽の政治広告など、AIで作った偽の画像や声が出回っていた。イタリアの報道では、登録されれば法的な対抗手段にはなるが、AIによる声のまねを自動的に止められるわけではないとされている。申請は審査中である。
中国・北京、AIの「デジタルヒューマン」に公的な身分証を試験発行
オーストラリアの公共放送ABCは10月7日、北京市が試験的に、AIで作られた仮想の人物(デジタルヒューマン)に公的な身分証を発行していると報じた。仮想アイドル「Yuri」が初めて交付を受け、名前・誕生日・住所・顔の特徴が記載されている。身分証により、運営会社がデジタル通貨の口座を開いたり、企業と提携したりできる。当局は先月、放送・動画配信の事業者にデジタルヒューマンの登録を求める指針を出した。国内のデジタルヒューマン関連企業は130万社を超えるとされる。問題が起きたときに運営会社まで責任をたどれるとの評価がある一方、ネット上の匿名性を失わせ、言論を萎縮させるとの懸念も専門家から出ている。
市民・行政への含意
今週の動きは、作る技術の大きな飛躍ではなく、「本物の人の声や姿をどう守るか」「AIの人物の責任を誰が負うか」という仕組みの側に集まった。首相が自分の声を商標にするほど、声や姿の偽造は政治家にとって身近な問題になっている。動画生成AIの性能競争は、Kling 4.0の完全版の公開待ちが続く。
出典:Kling 4.0(Kling AI公式)、Kling 4.0: October promise, Flash-only in practice(SlopTV)、Veo(Google DeepMind公式)、Product Updates & Changelog(Runway公式)、Seedance 2.5(ByteDance Seed公式)、Grok Imagine Video 1.5 Lite(OpenRouter)、Grok Imagine Video 1.5 Lite on AI Gateway(Vercel)、Get started with Claude Motion(Claude ヘルプセンター)、Anthropic Launches Dashboard, Animation Tools for Claude(U.S. News/ロイター)、Giorgia Meloni voice trademark aims to fight AI deepfakes(Cybernews)、Italy's Meloni Follows Pop Stars in Seeking to Trademark Her Voice to Combat AI Deepfakes(U.S. News/AP)、China moves to register AI digital humans as sector attracts more than 1.3 million companies(ABC News)
7. その他の動き
| 日付 | 主体 | 内容 |
|---|
| 10/8 | ニューヨーク市議会 | 10月5日の公聴会(本欄10/6号既報)を受け、本会議でAI規制の条例案を提出した。第三者による検証と緊急停止の義務づけ、安全上の事故の開示、AIの被害についての市民の訴訟権、内部告発者の保護、AIを使った欺く広告の禁止、ディープフェイクの禁止などを含む10本の案からなる。召喚に応じなかったSpaceXAIについて、ジュリー・メニン議長は「召喚状に答える唯一の方法は議会で証言することだ。さもなければ裁判になる」と改めて述べた |
| 10/8 | アントニオ・グテーレス国連事務総長 | 脳の活動を読み取ったり変えたりする「ニューロテクノロジー」が急速に進み、政府が人の脳にアクセスし操作できるようになれば基本的人権への脅威になると警告する報告を出した。捜査で容疑者の脳からデータを引き出すことや、将来罪を犯しそうな人を脳の測定で予測することなどを懸念として挙げ、思考を「特に慎重に扱うべき個人情報」として扱うこと、刑事司法で使う際の明確な同意を各国に求めた |
| 10/8 | Google | 診断支援の対話AI「AMIE」の臨床研究が英医学誌ランセットに掲載されたと発表。米国の病院で、救急外来を受診する前の患者98人がAIと対話した。医師が見守る中で安全のために会話を止めた例はなく、AIが挙げた診断の候補は90%の例で医師の最終診断と一致した。研究チームは、より大規模な試験が必要だとしている。AMIEは研究用で、実際の診療には使われていない |
出典:City Council, Meeting of October 8, 2026(Hearing Hearings/GitHub)、NYC still fighting for SpaceX to testify on AI: Menin(Yahoo!ニュース転載)、U.N. Warns Against Technology Used to Read Citizens' Minds(New Edge Times)、AMIE clinical study published in The Lancet(Google)
9. まとめ:今日の要点
- 国内で大規模な個人情報の流出の公表が相次ぎ、JNNの集計では約2週間で最大6,200万件あまりにのぼる。 政府の国家サイバー統括室は10月9日、脆弱性への迅速な対応、多要素認証、委託先を含めた対策の徹底を求める注意喚起を出した。「先端AIによる無差別攻撃」の可能性が指摘されているが、政府はAIの関与を含めて調査中としている。
- CrowdStrikeは10月7日、韓国の金融機関への攻撃で、AIの自律侵入ツールARTEXとClaude Codeが使われていたと公表した。 Anthropicは10月8日、重要インフラとオープンソースを守る側を支援する「Cyber Mission」を発表した。
- OpenAIは10月7〜8日、無料版を含むChatGPTの標準モデルをGPT-6に切り替え、答えをグラフや計算ツールの形で返す機能を加えた。 AnthropicはGPT-6 Lunaと同じ料金の小型モデルClaude Haiku 5.5を出し、利用ルールの改定で高リスク用途での人の確認と「AIへの残酷な扱い」の禁止を定めた(11月12日適用)。
- 動画生成AIでは、Kling 4.0の完全版が10月10日時点でも公開されていない。 Veo・Runway・Seedanceにも新モデルはなく、話題はメローニ首相の声の商標出願や、北京のAI人物への身分証など、本物の人の声や姿を守り、AIの人物の責任をたどる仕組みの側に集まった。